ここまで、会社設立における役員報酬のルールや決める時期などをご案内してきましたが、
それでは実際に金額をいくらにするか、どのように決めればよいのでしょうか。
この役員報酬の金額決定は、経営者として長い経験を持つ方でも難しい問題なのです。
役員報酬は会社の利益の中からねん出するものです。
会社の利益の半分くらいにしよう、あるいは、社長一人だけの会社なら利益の8割くらいもらっておこう、
様々な考え方があります。
一方上の記事で見たように、役員報酬はその年度が始まってから3か月以内に決める必要があります。
しかし中小企業の業績は、なかなか期首の予想や計画通りには行きませんね。
むしろ、予想・計画より上振れする、下振れするケースが大半でしょう。
特に会社設立初年度ならばなおさらです。
そうなっても一度決めた役員報酬は、その年度終了まで変えることができません。
その結果どうなるか。
その年度が終わり、振り返ってみると、会社の利益に対して役員報酬が過大であったり、
過小であったりします。これはある程度やむを得ないことです。
この先1年間の会社利益がはっきりわかっていれば、個人・法人を合わせた税負担がなるべく
小さくなるように役員報酬を設定する、ということもある程度可能ですが、中小企業にとって、
それはほとんど不可能に近いでしょう。
それでもとにかく、会社設立から3か月以内に役員報酬は決めなければなりません。
その金額決定においては、まず以下の三要素に基づいて、ご検討いただくようご案内しています。
A 会社の損益
B 社会保険料
C 生活必要額
それぞれを詳しく見ていきましょう。
A 会社の損益
中小企業の損益は予測とかい離しやすい、というお話をしましたが、
それでもやはり役員報酬の源泉は会社の利益です。
毎月平均の利益が多く見ても50万円くらいなのに、役員報酬月額を100万円にするわけにはいきません。
一般的には、予測する月間利益の5割から8割程度の金額で役員報酬を設定されるケースが多いようです。
金融機関との取引上、できるだけ会社を赤字にはしたくないというお考えであれば、
役員報酬は控えめな金額にされると良いでしょう。
B 社会保険料
会社設立初年度の役員報酬を決めるうえで、見落としてしまいがちなのが社会保険料です。
会社は必ず自社の社会保険を作り、少なくとも社長はその社会保険に加入する必要があります
(この手続きを怠ると、年金事務所からの督促・指導が行われます)。
そして、この社会保険料が中小企業には馬鹿にならない金額です。
現在、社会保険料負担は本人分・会社分、併せて給料月額の約3割です。
役員報酬月額を50万円とした場合、毎月おおよそ15万円を社会保険料として納めなければなりません
(従業員がいればその会社負担分も発生します)。
個人事業主の法人成りの場合、代表者は国民健康保険・国民年金に加入しているケースが多いと思われますが、
ほとんどの場合、保険料負担はかなり重くなります。
社会保険料が会社の損益・資金繰りにどの程度影響するか、その点も十分考慮しながら、
役員報酬を決めましょう。
C 生活必要額
ここまで会社の損益、社会保険料と見てくると、「設立第1期の役員報酬は控えめにしておこう」
というお考えになる方も多いでしょう。
それは間違いではありませんが、もう一つ、社長ご自身の生活には毎月いくら必要なのか、
十分に考えていただく必要があります。
家族は何人か、住宅ローンはあるのか、教育費は、医療費は、などなど...
役員報酬をあんまり少ない金額にして、ご家族から不満が出るのも良くありませんね。
会社設立直後はご家族の協力も大切な時期です。
なかには、役員報酬を必要な生活費よりかなり低く設定したため、役員報酬とは別に、
社長が会社から資金を借りている、というケースもあります。
これはあまり望ましいスタイルではありませんので、生活に最低限必要な金額は、
役員報酬で賄うようにして下さい。
もし、個人の貯蓄が潤沢にあるなら、会社設立当初はできるだけ役員報酬の金額を
低くして社会保険料負担を抑制、会社に利益を残すことが有力な選択肢になるでしょう。