役員報酬とは何か

(2018年1月更新)

この記事で解説する役員報酬とは、新たに設立した会社から支給される社長の給料、ということです。

社長(代表取締役)以外に役員(取締役)がいれば、その方の給料も役員報酬になります。

 

役員報酬は、会社設立前後、お客様が悩んでしまう問題の代表格なので、ここで詳しくご案内差し上げて参ります。

 

なお、ほとんどの株式会社設立において、設立当初の役員は社長一人ですから、この記事でも基本的には役員報酬=社長の給料という考え方で進めて行きます。

 

さて、特に個人事業から法人成りされたお客様についてご理解をお願いしたいのですが、個人事業の場合、売上から仕入や従業員の給料、諸経費を差し引いて、残ったお金=利益がそのまま代表者の給料になると考えて差し支えありません。

 

ところが、会社になればその考え方を大きく転換していただく必要があります。

 

会社の場合、原価や経費を差し引いて残った利益はあくまでも会社のものです。

社長が、自分の生活費として自由に使えるわけではありません。

 

社長は自分の生活費として、会社の利益の中から、あらためて給料=役員報酬を支給してもらう必要があるのです。

その点では、社長も、他の役員も、一般従業員も、同じ取扱いになります。

 

ただし社長は使用者であり、会社とは一種の委託関係にあります。

労働者であり、会社と雇用契約を結ぶ一般従業員とは根本的に異なる部分もあります。

 

その違いが、これからお伝えする役員報酬の取り扱いにも現れているのです。

役員報酬に関するルール

さて、会社から給料をもらうという点では、「社長も、他の役員も、一般従業員も」、皆同じとお伝えしました。

 

その一方、社長の役員報酬と、一般従業員の給料には、大きな違いもあるのです。

役員報酬には従業員とは異なるルールが設けられている、と言い換えても良いでしょう。

 

役員報酬に関する主なルールは以下の通りです。

→役員報酬は年に1回だけしか金額変更ができない。

→金額変更ができる時期も決められている。

→違反すると、役員報酬は会社の経費として認められない。

 

これらのルールは比較的新しく、2006年ごろに定められたものです。

なぜこんなルールが作られているのでしょうか。

 

それは、国税庁サイドに、役員報酬が利益操作に使われてきた、という考え方があるからでしょう。

 

つまり、会社の利益が多い年は役員報酬を引き上げて法人税を節税する、会社の利益が少ない年は役員報酬を抑制して個人の所得税・住民税負担を減らす...

 

役員報酬について何もルールがない時代は、このような変更を機動的に行うことで、総合的な税負担を減らすことも可能な面がありました。

 

多くの中小企業では社長が100%株主でもありますから、社長は自分の給料を自由に変えることができます。

国としては、それによる税収減を避けるため、役員報酬についてこのようなルールを定めたと考えられます。

 

なお、上に挙げたルールを満たす役員報酬のことを「定期同額給与」と呼びますので覚えていおいて下さい。

 

会社設立とは、今後社長ご自身が、自らの収入について、こういったルールに従うことになる、という面もあります。

個人事業と比較して、会社にはどうしても不自由な点、融通が利かない面もあるのです。

 

会社設立するのか、個人事業が良いのか、こういった点も踏まえてご検討いただくと良いでしょう。

役員報酬を決める時期

さてもう一度、役員報酬に関するルールを見てみましょう。

→役員報酬は年に1回だけしか金額変更ができない。

→金額変更ができる時期も決められている。

→違反すると、役員報酬は会社の経費として認められない。

 

役員報酬は年に1回だけしか金額変更ができない、その時期も決められているという点を詳しく考えていきます。

 

この変更時期ですが、「期首から3か月以内」が大原則になります。

 

例えば4月1日から3月31日までが事業年度のA社で考えてみましょう。

A社は毎月末日に役員報酬を支給しているとします。

 

A社の場合、期首から3か月以内、すなわち4月1日から6月末までの間に役員報酬の金額を変更できるということですね。

通常、役員報酬を変更する場合は株主総会を開催する必要がありますが、創業段階の会社で社長が株式を100%保有していれば、株主総会はいつでも機動的に開くことができます。

A社の役員報酬変更は、5月に株主総会開催→5月末支給分から変更でも、6月に株主総会開催→6月末支給分から変更でも、どちらでもOKというわけです。

 

 

それでは、会社設立の場合はどうなるでしょうか。

新しく設立したB社のケースで考えてみましょう。

 

B社

・事業年度は4月1日から3月31日まで

・毎月末日に役員報酬を支給する。

・20XX年8月23日に会社設立した。

 

B社も、第2期以降はA社と同様に、期首から3か月以内である4月1日から6月末までが役員報酬変更時期になりますね。

 

しかし、第1期については、8月23日に会社設立していますから、そもそも4〜6月は会社が存在していません。

そうすると、会社設立第1期は役員報酬が支給できないということになるでしょうか。

 

いいえ、ここでも大原則の「期首から3か月以内」が適用されます。

すなわち、第1期は会社設立した8月23日が期首日になりますから、3か月後の11月22日までに株主総会を開催して役員報酬を決定すればよいのです。

もちろん、時期を早めて9月支給開始でも、10月支給開始でもかまいません。

 

ところで、11月に役員報酬を決定して11月末日に最初の支給を行う場合、支給日は「期首から3か月以内」を超過していますね。

しかし、法令で定められているのは「3か月以内の変更」であり、「3か月以内の支給」ではありません。

従って、11月22日までに株主総会を開いて役員報酬を決めれば、支給日が3か月を超過した11月末日でもOK、という考え方になります。

役員報酬の金額決定

ここまで、会社設立における役員報酬のルールや決める時期などをご案内してきましたが、それでは実際に金額をいくらにするか、どのように決めればよいのでしょうか。

 

この役員報酬の金額決定は、経営者として長い経験を持つ方でも難しい問題なのです。

 

役員報酬は会社の利益の中からねん出するものです。

会社の利益の半分くらいにしよう、あるいは、社長一人だけの会社なら利益の8割くらいもらっておこう、様々な考え方があります。

 

一方上の記事で見たように、役員報酬はその年度が始まってから3か月以内に決める必要があります。

しかし中小企業の業績は、なかなか期首の予想や計画通りには行きませんね。

むしろ、予想・計画より上振れする、下振れするケースが大半でしょう。

特に会社設立初年度ならばなおさらです。

そうなっても一度決めた役員報酬は、その年度終了まで変えることができません。

 

その結果どうなるか。

その年度が終わり、振り返ってみると、会社の利益に対して役員報酬が過大であったり、過小であったりします。これはある程度やむを得ないことです。

 

この先1年間の会社利益がはっきりわかっていれば、個人・法人を合わせた税負担がなるべく小さくなるように役員報酬を設定する、ということもある程度可能ですが、中小企業にとって、それはほとんど不可能に近いでしょう。

 

それでもとにかく、会社設立から3か月以内に役員報酬は決めなければなりません。

 

その金額決定においては、まず以下の三要素に基づいて、ご検討いただくようご案内しています。

A 会社の損益

B 社会保険料

C 生活必要額

 

それぞれを詳しく見ていきましょう。

 

A 会社の損益

 

中小企業の損益は予測とかい離しやすい、というお話をしましたが、それでもやはり役員報酬の源泉は会社の利益です。

毎月平均の利益が多く見ても50万円くらいなのに、役員報酬月額を100万円にするわけにはいきません。

 

一般的には、予測する月間利益の5割から8割程度の金額で役員報酬を設定されるケースが多いようです。

金融機関との取引上、できるだけ会社を赤字にはしたくないというお考えであれば、役員報酬は控えめな金額にされると良いでしょう。

 

B 社会保険料

 

会社設立初年度の役員報酬を決めるうえで、見落としてしまいがちなのが社会保険料です。

 

会社は必ず自社の社会保険を作り、少なくとも社長はその社会保険に加入する必要があります(この手続きを怠ると、年金事務所からの督促・指導が行われます)。

 

そして、この社会保険料が中小企業には馬鹿にならない金額です。

現在、社会保険料負担は本人分・会社分、併せて給料月額の約3割です。

 

役員報酬月額を50万円とした場合、毎月おおよそ15万円を社会保険料として納めなければなりません(従業員がいればその会社負担分も発生します)。

 

個人事業主の法人成りの場合、代表者は国民健康保険・国民年金に加入しているケースが多いと思われますが、ほとんどの場合、保険料負担はかなり重くなります。

 

社会保険料が会社の損益・資金繰りにどの程度影響するか、その点も十分考慮しながら、役員報酬を決めましょう。

 

C 生活必要額

 

ここまで会社の損益、社会保険料と見てくると、「設立第1期の役員報酬は控えめにしておこう」というお考えになる方も多いでしょう。

 

それは間違いではありませんが、もう一つ、社長ご自身の生活には毎月いくら必要なのか、十分に考えていただく必要があります。

家族は何人か、住宅ローンはあるのか、教育費は、医療費は、などなど...

 

役員報酬をあんまり少ない金額にして、ご家族から不満が出るのも良くありませんね。

会社設立直後はご家族の協力も大切な時期です。

 

なかには、役員報酬を必要な生活費よりかなり低く設定したため、役員報酬とは別に、社長が会社から資金を借りている、というケースもあります。

これはあまり望ましいスタイルではありませんので、生活に最低限必要な金額は、役員報酬で賄うようにして下さい。

 

もし、個人の貯蓄が潤沢にあるなら、会社設立当初はできるだけ役員報酬の金額を低くして社会保険料負担を抑制、会社に利益を残すことが有力な選択肢になるでしょう。

その他の注意点(在職老齢年金)

役員報酬を決定する要素として会社の損益、社会保険料、生活必要額の三つの要素を見てきました。

もう一つ、年配の方にご注意いただきたいのは在職老齢年金です。

 

近頃は、会社を定年退職された方が、退職後に自分で会社を設立し、その長い経験を生かして活躍し続けることも珍しくありません。

そんな時にご注意いただきたいのがこの在職老齢年金の問題です。

 

在職老齢年金とは要するに、働いて給料を得ている人がもらう年金、ということですが、残念ながら、給料が一定額以上になると、年金が減額される仕組みになっているのです。

 

では、給料=役員報酬がどれくらいなら減額を回避できるでしょうか。

現在の仕組みでは65歳未満と65歳以上で取り扱いが異なりますが、65歳未満では給料+年金が月額28万円以下、65歳以上では給料+年金が月額46万円以下ならば、年金は減額されません。

 

上記基準を超えると減額が始まるのですが、超過額と減額幅の関係については計算が少し複雑なので、必ず日本年金機構のホームページを確認するか、お近くの年金事務所にお問い合わせ下さい。

 

なお、70歳を超えると、会社の社会保険のうち、厚生年金保険からは外れることとなり、年金保険料の支払いはなくなりますが、それでもこの在職老齢年金の減額制度は適用されますのでご注意下さい。

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